なんで指原に19万票も入るんだ!

「なんで指原に19万票も入るんだ!」
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こんにちはTaka改め、たからです。

今日は、あいりが募金について書いていた記事に触発されて、つらつらと調べてみた内容について書たいと思います。

ところで、日本ではAKB総選挙が終わったようですね。

指原莉乃さんが19万票で1位に返り咲いたとか。
AKB総選挙全体の投票数が過去最高だったとか。
ニュース記事でも取り上げられていますね。

さて、みなさんに質問です。
みなさんは誰に投票しましたか?指原さんですか?
今日のブログは指原さんに投票した人に読んでいただきたいです(笑)

というのも、今日のテーマを選んだのは「なんで指原に19万票も入るんだ!」と
思ってしまったことが発端だからです。 笑

指原か肺炎に苦しむ44人の子供か
指原さんに1票入れるため買うCD一枚の値段が1000円だとします。
例えば同じ金額、1000円をユニセフに寄付するとどうなるでしょう?ユニセフのホームページによれば
1000円あれば肺炎に苦しむ子どもたちを治療する抗生物質44.5人分を買うことができます。(1人分約22円)

1000円で、
方や指原莉乃さんに投票でき、
方や44.5人の子供の治療を手助けすることができます。

想像してみください。
今、あなたは右手に1000円札を握りしめて立っています。
目を開けると、目の前には指原莉乃と、肺炎に苦しむ44人の子供がいます。

あなたは手の中にある1000円札と引き換えに
指原に一票投票するか、子供たち全員に肺炎治療のための薬を与えることができます。

質問です。
指原さんか子供たち、どちらに1000円を渡しますか?

どうでしょう。
肺炎でも命を落しかねないことを理性的に考えると、
多くの人が迷わず44人の子供に抗生物質を与えるのではないでしょうか?

というか指原さんもそれを望むことは請け合いです。(笑)

では、なんで先日の総選挙で指原さんに投票した人は1000円をユニセフに寄付せずAKBの投票権つきCDを買ったんでしょう。
「なんで指原に19万票も入るんだ!」と。

この疑問を、
寄付者の心理についての研究、
中でも特定可能な被害者効果(Identifiable Victim Effect)を踏まえて考察してみよう
というのが今回の切り口です。

Helping a victim or Helping "the" victim

1987年のテキサス州で、当時1歳6カ月の赤ちゃんだったジェシカちゃんにアメリカ中から700,000ドル以上もの寄付が集まりました。
ジェシカちゃんは、叔母の家の裏庭にある7メートルほどある井戸の中に誤って転落してしまい、その救助の様子がテレビのニュースで全国的に生放送され
「みんなの赤ちゃんジェシカに!」とたくさんのオモチャ、お菓子や寄付金が殺到したのです。(Baby Jessica Biography, n.d.; Small, 2003; Small 2007)

なぜ、ジェシカ一人の為に700万ドルもの寄付が集まったのでしょう?

この疑問は、寄付者の心理を研究する研究者の注目を集め、
特定可能な被害者効果について議論を巻き起こしました。
(後に述べますが、あいりが取り上げていた“大勢よりひとり”
についての議論もこの系譜に属すようです。)

特定可能な被害者効果とは、読んで字のごとく、
特定可能な個人の方が、特定されていない人よりも
寄付を呼びやすいという現象のことです。

ここで言う"特定可能"とは、狭義には、
被害者についての個人情報がある、なしにかかわらず
誰に寄付がされるのかが決まっている、ということを指します。

2003年、スモール(Debrah A. Small)ローウェンシュテイン(George Lowenstein)らの論文は、赤ちゃんジェシカの例に言及しながらも、
注意深く設計された実験によって特定可能な被害者効果を裏付ける結果を報告し、学会から注目を浴びました。

研究チームは、76人の被験者を半分に分け、
“KEEP”チームの半数38人にはそれぞれ10ドルが入った封筒を渡し、
もう半数の”LOSE”チームには10ドルを渡しませんでした。

KEEPチームの人は、LOSEチームからくじ引きでランダムに選ばれた一人のパートナーと10ドルを分け合うよう説明されますが、相手に10ドル中何ドル渡すかはKEEPチームの人が決められることになっています。

実験では、下の3つの手順、

①10ドルの配分を決める。
②くじ引きで10ドルを分けるパートナーを決める(この時点では誰がパートナーかわからない)。
③パートナーが誰なのか確認し10ドルを分ける。

を、配分の仕方を決めるのが先か、
配分するパートナーを選ぶのが先かの2パターン、つまり

パターン1:①→②→③

パターン2:②→①→③

に分け、それぞれでKEEPチームの人の10ドルの配分の仕方がどう違うかを比較しました。

結果は、パターン2の”あらかじめ誰にお金を渡すか特定していた方”が、KEEPチームの人は寛容な配分をするという結果になりました。(下図参照)

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(pp. 10より抜粋)

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(pp. 10より抜粋)

また同論文では、
一方には「寄付する相手がすでに決まっています。お金を下さい。」
もう一方には「お金を下さい。寄付する相手はそれから決めます。」

と寄付者にお願いし、寄付金額を比較するという実験でも

誰にお金を渡すか特定していた前者の方が、より多くの金額が寄付されるという結果を報告しており、特定可能な被害者効果を裏付けています。(下図参照)

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(pp. 13より抜粋)

特定可能な被害者効果の存在は、スモールとローウェンシュテインらによって証明されたのです。

寄付者の “感情”と“理性”
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この分野で代表的な研究者であるスロビック(Paul Slovic)は、特定可能な被害者効果をうまく言い表した表現として

マザーテレサの 
「大勢の被害者を前にするならば、私は何もしないでしょう。たったひとりを見るから、助けようと行動するのです(著者意訳)。(If I look at the mass, I will never act. If I look at the one, I will.) 」

という名言をしばしば引き合いに出します。

スロビックは、この特定可能な被害者効果が起こる過程には、2つの心理システムが絡み合っていると考えています。一つは感情的なシステム(the affective system)、もう一つは熟慮のシステム(the deliberative system)です。(Singer. 2009)

感情的なシステムは感情に訴えかけるようなイメージやストーリーを信号に、直感的な善悪の判断が刺激され、突発的な寄付行動を促す心理プロセスです。(Singer. 2009)

対して熟慮のシステムは、理性的なプロセスで言葉や数字などのデータによって働く論理的な判断のプロセスです。感情的なシステムよりも意識的なプロセスであるため、寄付行動を行うために論理的な裏づけ証拠を必要とします。論理的な思考を経るため突発性は低いですが、意思決定の持続性が高いという特徴を持ちます。(Singer. 2009)

簡単に言えば
前者は、感情的な反応のシステム、
後者は、理性的な思考のシステム
と言えそうです。

基本的には、
特定可能な被害者効果の原動力となるのは感情的なシステムで、
それを抑制するのが熟慮のシステムはであると言うことができます。

熟慮のシステムによる特定可能な被害者効果の抑制
2007年、スモールとスロビックは共同で論文を執筆しています。
特定可能な被害者効果について、寄付者の熟慮のシステムの働きに焦点を合わせたこの研究も、学会で需要な研究として注目されています。

この研究における一連の実験は、寄付者が
大勢の統計的(Statistical)な被害者、特定可能(Identifiable)な被害者
どちらに寄付をするのかを観察することで、特定可能な被害者効果の有無を調べられる様に設計されました。
この研究が特異なのは、各実験において寄付者への多様な“介入”を試みることで、多様な寄付者の心理状態と行動との関連性を観察した点です。発見は以下の通りです。

特定可能な被害者効果は、寄付者の思考が理性的、機械的な時は低減される。

一連の実験うちの一つでは、ただ寄付をしてもらうだけでなく、
寄付の前に2種類の思考テストを受けてもらうという“介入”が試みられました。

片方には計算に基づいた思考が必要な(calculation-base mode of thought)問題、
例) "物体が5フィート毎分で移動している時、360秒では何フィート移動しますか? (pp. 150)"

もう片方には感情に基づく思考が必要な(feeling-based mode of thought)問題
例) "赤ちゃん」という言葉を聞いた時、どう感じますか?一番強く感じる感情を書き表してください。 (pp. 150)"

を与え、その後に寄付行動を行ってもらった結果は次の通りです。
(下図参照)

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(pp. 150より抜粋)

感情を刺戟する問題を解いたグループ(左から2つめと4つめのグラフ)を見ると、特定可能な被害者効果が起こっているのがわかります。

対して、計算問題を解いたグループ(左から1つめと3つめのグラフ)は、統計的な被害者に払うよりも少ない額を特定可能な被害者を寄付をしているのがわかります。つまり、特定可能な被害者効果が働いていません。

この結果からは

特定可能な被害者効果は、寄付者の思考が理性的、機械的な時は低減される。

という結論を導くことができます。

統計データは特定可能な被害者効果を低減させる

もう一つの実験では、統計データを知ることが寄付行動に与える影響を調べています。

この実験では、寄付者を3グループ、
①統計的な被害者への寄付(Statistical victim)
②特定可能な被害者への寄付(Identifiable victim)
③被害者の統計的な情報を得た上での、特定可能な被害者への寄付(Identifiable victim with statistics)

に分け、それぞれの平均寄付額を調べました。

結果は以下の通りです。(下図参照)

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(pp. 149より抜粋)

②(左から2つめのグラフ)、③(左から3つめのグラフ)を見比べると、なんと!
統計的なデータを知るだけで統計的な被害者への寄付額が大きく下がってしまうという結果が明らかに見て取れます。

スモールとローウェンシュテイン、スロビックの3人はこの結果を
"人々が統計的な被害者に寄付しないは、おそらくいくら寄付しても問題の解決にならないと考えるからではないか (pp. 149)"と解釈しています。

あいりの記事で取り上げられていたヴェストフィエール(Daniel Västfjäll)は3人のこの研究、この仮説を踏まえ、2014年のWhoever Saves One Life Saves the Worldにてそれを実証するに至りました。
特定可能な被害者効果についての研究は簡単に見るとこのように引き継がれているようです。

”特定可能な被害者効果”を学ぶ意味

ここで無理やり話をAKB総選挙に戻したいと思います。

これまで寄付者の心理について、議論の変遷を軽く述べてきましたが、
赤ちゃんジェシカの700,000ドルの寄付の話はもとより、
AKB総選挙での投票活動を推しメンへの寄付だと解釈するならば、
指原さん19万票も特定可能な被害者効果の最たるものだと言えるのではないでしょうか。

メディア露出が激しい指原さんのような人気者は
TVなどで日常的に視聴者に顔を売り、
春先になると総選挙を一大イベントとしてPRすることで世間やファンの心情を煽り、
「頑張っている少女」というストーリーを繰り返し語ることで感情移入を誘う。
これらはスロビックの言う感情システムに働きかけるものです。

その感情システムの働きが最大限引き出された結果、図らずも(ある程度図っているのかも知れませんが)、
ユニセフを通しての誰ともわからない子供たちへの募金よりも
“特定可能な”AKBの推しメンへの一票を選ぶ結果になる
、、、という理解ができます。

(AKB中で誰に投票するかは完全に、個人の好き嫌い、感情と感情の問題なので
なぜ指原莉乃さんが一位になったのかという原因の解明は
今回の議論が及ぶ範囲ではありませんが。)

19万もの投票者の心理には、赤ちゃんジェシカへの募金と同じように
感情システムへの刺戟による特定可能な被害者効果というプロセスがあったことは想像に難くありません。

さて、この記事も長くなりましたが
くだらない内容をここまで読んでくださった心優しい方に(笑)
最後にささやかなオチを用意してあります。

実は、

スモールとローウェンシュテイン、スロビックの2005年の研究では、もう一つ面白い実験結果が出ています。それは

特定可能な被害者効果を知っている人には特定可能な被害者効果は起こらない

というものです。

この実験で行われた被験者への介入は、
寄付行動の前にある短い文章を読んでもらうというものです。
それは、
“赤ちゃんジェシカが700,000ドルの寄付を得た一方で、今年交通事故で亡くなりかけた何千人という子供たちはほとんど強い反響を生まないでしょう。(pp. 146)”という例と共に、特定可能な被害者効果について説明する内容の文章です。

この文章は寄付者にどの様な影響を与えたでしょう?

結果は以下のグラフです。(下図参照)

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(pp.146より抜粋)

特定の被害者に対する寄付の介入を受けなかった場合(左から3)、受けた(左から4)の金額を見比べると、介入が特定可能な被害者効果を打ち消している様子が見え取れます。

特定可能な被害者効果を意識した状態にあると、その効果はほとんど起こらないのです。
これは、特定可能な被害者効果が熟慮のシステム内で加味された結果、
理性的に齟齬が取り除かれる為でしょう。

ここで一旦、これまでに紹介させていただいた研究結果や提言を以下にまとめます。

・被害者についての個人情報がある、なしにかかわらず特定可能な被害者効果は存在する。by スモールとローウェンシュテイン
・被害者効果が起こる過程には、感情的なシステムと熟慮のシステムが関与している。by スロビック
・特定可能な被害者効果は、寄付者の思考が理性的、機械的な時は低減される。by スモール、ローウェンシュテイン & スロビック
・統計データは特定可能な被害者効果を低減させる。by スモール、ローウェンシュテイン & スロビック
・特定可能な被害者効果を知っている(を熟慮のシステムに取り入れる)人には特定可能な被害者効果は起こらない by スモール、ローウェンシュテイン & スロビック
・統計データを知ることで特定可能な被害者効果が低減するのは、寄付者が「寄付したところで助けられない」と諦めてしまうからである。by ヴェストフィエール

あなたはもう指原に投票しない!?

ここまで、何度も特定可能な被害者効果、特定可能な被害者効果と連呼してきましたが、これにより、
感情のシステムではなく熟慮のシステムでこの効果を加味して
寄付の選択について考えることができる準備が整ったと思います。

つまり、このブログ記事を読んでくださったみなさんは、
特定可能な被害者効果の呪縛からから自由になったということです。


ここで最後に質問です。

想像してください。

あなたは右手に1000円札を握りしめています。


このブログをここまで読んで
特定可能な被害者効果を学んでくださったあなたは、

そのお金でAKBの総選挙投票券付きCDを買い、
指原さんに投票しますか?




話が大変長くなってしまいましたが、読んでいただきありがとうました。





このブログ記事を通して伝えたかったこと、


そうです。


それは、


理性的になって、





次はまゆゆに一票を。(←違う)



たからでした。

おまけ

シンガー(Singer)(2009)は、著書The Life You Can Saveの中で募金活動の意義を呼びかけており、そこそこ反響があったそうです。あいりが紹介していたDaniel Västfjällの論文にも参考文献として紹介されていました。
ちょうど去年の今頃に発売された日本版、”あなたが救える命:世界の貧困を終わらせるために今すぐできること”を翻訳された立命館大学石川先生に、留学前課題として紹介していただきました。ご縁があり読んだこの本に、貧困問題とその解決や募金についてとても考えさせられました。

最近は プラン・ジャパン
のように"~村の9歳の男の子○○くん"が教育を受けるために月々5000円の継続的な援助を!○○くんから 感謝の手紙が届きます。みたいに、より特定可能な”ひとり”を継続的に支援する活動も増えてるみたいですね。
尊敬する留学先の先生も同様のプロジェクトで2、3名の子どもを支援しています。

僕も微力ですが、バイト代が入った時は決まった割合をユニセフ
なんかに寄付する習慣を数年間心がけています。

偉そうに言える立場ではありませんが、稼いだお金を自分の信じる社会的活動に寄付する習慣があれば、どのような仕事をしていても、回り回って”世の中ために働いている”ことになるのではないかな。ついでに無駄遣いも減るし一石三鳥や。と思っています。

シンガーは募金などによって人の命を救うのにかかる金額がいくらかをざっと計算してみた結果、一つの命につき2万円〜20万円が相場だと述べました。
私たちの寄付でも救える命があるかも知れません。

参考文献
Singer, P. (2009). The life you can save: Acting now to end world poverty. New York: Random House.

Small, D. A., & Loewenstein, G. (2003). Helping the victim or helping a victim: Altruism and identifiability. Journal of Risk and Uncertainty,26(1), 5–16.

Small, D. A., Loewenstein, G., & Slovic, P. (2007). Sympathy and callousness: The impact of deliberative thought on donations to identifiable and statistical victims. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 102, 143–153.

Biography. (n.d.). Baby Jessica. from http://www.biography.com/people/baby-jessica-17175736

日本ユニセフ協会、みなさまの募金・寄付でできること (n.d.) from http://www.unicef.or.jp/cooperate/coop_support.html

本ブログ内 ”大勢よりもひとり” http://sustainablity.seesaa.net/article/420471273.html by あいり


この記事へのコメント

  • T

    ふるさと納税など納税者に見返りのある物などは自然と寄付も増えるでしょうけど、今回の事例のような寄付での現象は面白いです!AKBメンバー1人のための生活or貧しい子約40人の命のためか、、、普通にかんがえたら選択は決まってますもんね!
    2015年06月17日 21:58
  • たから

    Tさん
    コメントありがとうございます。
    そうですね。たしかに40人の子供を病気から救う方が一般常識に照らして好ましいお金の使い道のように思われます。
    記事ではわかりやすい例として、指原さんの得票数を取り上げていますが、かと言って、AKBへの投票がお金の使い方として悪いと言うつもりは毛頭ありません。問題は、私たちが無意識に熟慮のシステムを経ることお金を使う判断をしてしまっていることです。
    普段私たちが"普通に考えたら"をいかに怠っているか、この記事がその事実を見つめ直す一助になれば幸いです。
    2015年06月18日 21:00